卵や精子は生きている細胞であるため、体外に取り出した後はできるだけストレスのない環境に置いておかなければなりません。そのため採卵で卵胞を吸引してから、胚移植で患者さんの子宮に戻すまでの間、専用の培養液を使って培養する必要があります。
向かって右からミネラルオイル(透明)、培養液①(赤色)、代替血清(黄色)、培養液②(赤色)、洗浄用培養液(透明)、培養液①と②には、卵へのストレスを減らすために代替血清を入れて使っています。
採卵で卵胞液の中から卵をとり出すときにつかうシャーレです。4つの穴と真ん中の十字のくぼみに培養液①が入っています。4つの穴の上にはオイルがかぶせてあります。
卵は顕微授精まで少し時間をおく必要があります。このシャーレの真ん中に卵を入れて2時間ほど培養します。くぼみが二重になっていて、どちらにも培養液①が入っていて真ん中にはオイルがかぶせてあります。
採卵で得られた卵は、周りに卵の発育を助けてきた細胞がついています。この細胞は顕微受精をする場合には剥がす必要があります。このシャーレは卵のまわりについている細胞を剥がすときに使うシャーレです。培養液①の上にオイルをかぶせて培養液の蒸発やpHの変化を防ぎます。
細胞を剥がした後に、卵を洗浄するためのシャーレです。12個の培養液①の上にオイルをのせています。
顕微授精が終了したあとに受精卵をいれるシャーレです。12個の培養液②の上にオイルがのせてあります。卵子と精子に使う培養液と、受精卵につかう培養液が違うのは、必要とされる成分が異なるためです。
紹介したシャーレに加え、精子調製用の培養液①と採卵でつかう洗浄用培養液をボトルに用意します。
採卵前日に培養液を用意して、インキュベーターの中に一晩いれておきます。インキュベーターの中は37℃になっており、O2が5%でCO2が6%と濃度が制御されています。これは卵管内の状態に近づけ、卵子や受精卵にストレスを与えないようにするためです。受精卵を入れるシャーレはタイムラプスインキュベーターの中に入れます。
それ以外のシャーレは全てこちらのインキュベーターの中に入れます。
このあと一晩かけて培養液と使用する器材はゆっくりとあたたまりながら患者様の卵子を受け入れる頃にちょうど良い状態になります。
※実際に使用するシャーレ等は全て、取り違え防止のため患者様の情報の記入しています。
体外受精当日朝におこないます。
精液は ①当院の採精室でとる ②自宅でとったものを持って来院する ③あらかじめ冷凍保存したものを使う という方法があります。採取された精液には、卵との受精を妨げてしまう成分が含まれています。また、通常射精された精子は子宮頸管から卵管へと進むにつれて受精できる能力を会得していきます。そのため、体外で受精を行うIVFの場合は、精液中に含まれる白血球や細菌などの受精の妨げになるものを除去し、さらに、培養液で洗うことで、受精に用いることができる状態にします。
採取され、洗浄する前の精子の状態
動いていない精子や動いていても動きの鈍い精子、形の異常な精子、さらには精子以外の丸い細胞など多数の夾雑物を含んでいます。この中で形の良い動いている精子を選ぶ必要があります。
精液の中から精子を分離するために、2つの密度の違う溶液を使います。この溶液は精子に悪影響を与えません。
2つの密度の違う溶液を重ねて、その上に精液をのせます。
精液の入ったチューブに遠心力をかけて精子を分離します。
分離後には3つの層にわかれます。一番上の層は精漿といって、白血球や細菌などが含まれています。真ん中の層は、発育不十分な精子や死んでしまった精子などが含まれます。また、形の異常な精子の多くもこの層に含まれます。一番下の層には、良い状態の精子が多く集まります。
分離に使った溶液を培養液で洗浄し、遠心力をかけて精子を下に集めます。これを2回行います。
遠心力をかけることで下に集まった精子
最後に少量の培養液で精子を濃縮して精子調製が完了します。
洗浄が終了したあとの精子です。
精子が濃縮されており、白血球なども見られず、元気の良い形の良い精子が多く見られます。この状態の精子を人工授精や体外受精、顕微授精につかいます。
採卵~受精の準備
岩城産婦人科では午前中に採卵します。
患者さんは採卵ベッドに横になります。
院長が経膣超音波で卵胞の位置を確認しながら、卵子を卵胞液ごと吸引します。
●採取できた卵胞液は、胚培養士が受け取ります。
●試験管が卵胞液にいっぱいになったら、
その都度、看護師が奥の培養士に手渡します。
●試験管を受け取ったら、ただちに培養士が
卵胞液のなかの卵子を培養液に移します。
●できるだけ早く移したほうが
卵子をいためないので、
できるだけ素早くおこなっています。
●培養器に移して、
卵子が受精しやすくなるまで培養を続けます。
※2時間、前培養というものをします。
●培養器の中は卵の成長に適した環境で、
酸素濃度や温度などが調節されています。
●多くの場合2時間の前培養で、
卵子は受精しやすい状態になります。
●顕微鏡で卵子の状態を確認します。
●精子ふりかけ法(媒精)または
顕微授精を行います。
体外受精の2つの方法
体外受精には、顕微授精と精子ふりかけ法があります。
極めて小さいサイズの針を使って、顕微鏡で観察しながら、精子を卵子に注入する方法が顕微授精です。
自然妊娠で精子が卵子に受精するには、いくつかの障害が存在します。
ー受精までの道のりでの障害ー
●精子が自ら泳いで卵子へ
たどり着かなければならない
●卵子を囲う透明帯を通過しなければならない
など
精子の数が少なかったり、運動性が低かったりすると、障害を突破することができません。
動き・形の良い精子を卵子に直接注入することで、こういった障害がなくなります。
卵子の入ったシャーレの中に精子を一緒に入れて、精子が自力で卵子の中へ泳いで入って受精します。
精子ふりかけ法
採卵でとれた卵子に、精子調整をした精子をかけて受精させる方法が、精子ふりかけ法です。
精子調整とは https://ameblo.jp/po4ku3chi2/entry-12420210620.html
精子調整の前後の画像 https://gamp.ameblo.jp/po4ku3chi2/entry-12420368321.html
精子が自力で泳いで卵子へたどり着く必要があるので、精子の数や動きが良好でないといけません。
精子をかけた後は、一晩培養して、翌朝に受精しているかどうかを確認します。
その後は、顕微授精と同じように、最新の培養器(タイムラプスインキュベーター)で培養となります。
顕微授精について
https://ameblo.jp/po4ku3chi2/entry-12421033365.html
岩城産婦人科では、
顕微授精にするか、精子ふりかけ法にするか、選ぶ時の精子の状態の基準を、ミシガン大学と同じ基準にしています。また、患者様ご本人のご希望をおうかがいして決定します。
顕微授精では、卵子に針を刺して、注射器で注入するみたいに精子をいれます。岩城産婦人科では、もっと弱い力で精子を注入する技術を、2013年に、全国的にも早い段階で導入しました。
それが ピエゾ イクシー です。
機械によって針先が非常に細かく震えます。とても細かく震える針先で卵子の膜に刺してゆっくりと精子を入れます。
ピエゾ顕微授精の様子
顕微授精の顕微鏡に、ピエゾの機械をつけます。
なぜ針が震えるといいのか?
顕微授精のときは針で卵子を傷つけてしまう可能性がありますが、ピエゾ顕微授精では卵子を傷つける可能性がかなり低くなります。
ピエゾ顕微授精の流れ
良い精子を選んでます。
通常の顕微授精と同じです。
ピエゾの機械の震えがあるので、
とても弱い力で針を進められます。
通常の顕微授精よりかなり優しい力です。
(透明帯を貫通)
さらに弱い力で卵子の膜をやぶり、
精子を注入します。
優しく針を抜きます。
ピエゾ顕微授精が終わりました。
日本語で『紡錘体』です。
染色体のかたまりです。
スピンドルの中心には卵子の染色体が並んでます。もしも、顕微授精の時に針がスピンドルに
触れてしまうと、染色体を傷つけてしまう恐れがあるので注意が必要です。
卵子を顕微鏡でかなり拡大してみても、スピンドルを見つける事は出来ません。
「スピンドル・ビュー」という卵子の中の紡錘体を見る装置を
平成18年に北海道で初めて岩城産婦人科が導入しました。
スピンドル・ビューで、紡錘体(スピンドル)を見ることが可能になりました。顕微授精のとき、紡錘体を避けて針を刺せるので、卵子の染色体にダメージを与えないようにできます。
紡錘体(スピンドル)の有無・サイズなどから卵子の育ち具合がわかるので、卵子のベストなタイミングで顕微授精ができます。
同じ卵子を通常の顕微鏡で見たとき。
(スピンドルは見えない)
岩城産婦人科が道内で初導入したスピンドルビューについて、苫小牧民放で紹介されました。
そもそも
インキュベーターとは
体外受精、顕微授精での受精卵を育てる機械。胚培養器。
受精卵が育つのに適した環境で、
体の中の卵管のような環境の状態になってます。
タイムラプス インキュベーターとは
常に受精卵(胚)の成長を観察できるしくみになっているインキュベーター。
受精卵の成長の観察の時には、毎回、機械から外に出さなければいけませんでした。
受精卵を機械から外に出さないで観察ができる、カメラ付きのインキュベーターです。
(インキュベーターがパワーアップ)
受精卵を機械から外に出した場合は、受精卵へのダメージが増えて、受精卵が傷ついてしまう事が増えます。また、胚移植のときに、1番いい受精卵を体に戻せます。理由は、1番いい発育時間・発育の様子を見極められるからです。タイムラプスを使えば、成長が最初からずっと記録されていて、動画として見られるからです。
精卵が完全に育っている状態では、育った成長していった様子・過程は、
見た目では判断ができません。
岩城産婦人科は、タイムラプスインキュベーターを使って、受精卵の成長記録を残してます。
大事な受精卵を大切に育てます。
受精卵を育てる機械、(タイムラプスインキュベーター)での、受精卵が育っていく様子を動画にしました。受精卵を大切に育てられ、1番いい受精卵を選んで胚移植をできる、タイムラプスインキュベーター。40秒弱で見やすくなっています。
岩城産婦人科では、安心で安全な新しい機械を揃えてます。そのひとつが、タイムラプスインキュベーターです。
卵子の真ん中にある小さい2つの円がでてきたら、
ちゃんと受精した印です。
2PN胚
ちゃんと受精したら、細胞分裂を繰り返して、成長していきます。
採卵から2日目で、2~4個の細胞に分裂しています。
(胚と呼ばれる状態)
2細胞期
4細胞期
順調に成長していくと、
採卵から3日目の朝に細胞が8つになります。
新鮮胚移植の場合は、この時点で受精卵(胚)を子宮に戻します。
凍結胚移植の場合は、ここで凍結保存します。
8細胞期
4日目で16個以上の細胞に分裂しています。
16細胞期 compaction胚
胚盤胞の状態なります。
凍結胚移植はこの時点で行われます。
透明帯から出てきた胚は子宮内膜にいって、やがて着床します。
初期胚盤胞
完全胚盤胞
孵化中胚盤胞
胚盤胞は内側の細胞と、外側の細胞があります。
体に戻す前に、この2つの細胞の育ち具合をみます。
1番いい胚盤胞を選んで体に戻します。
ICM…赤ちゃんになる部分 TE…胎盤になる部分
当院で行っている不妊治療技術をご紹介します。
卵子や受精卵を囲んでいる殻を、透明帯といいます。
受精してからの数日間は、透明帯が受精卵を保護していますが、
受精卵が子宮内膜にくっつく(着床)ためには
透明帯から飛び出します。(ふ化)
レーザー光線で透明帯を削ると、
受精卵が飛び出やすくします。
凍結した受精卵は、透明帯が硬いことが多いので、
凍結胚移植では、レーザーアシステッドハッチングを行います。
↓レーザーアシステッドハッチングする前の胚
↓レーザーアシステッドハッチング処理後の胚
左側の透明体(殻)が削れてます。
排卵誘発剤を使い、体外受精のなかでも
凍結胚移植である事がポイントです。
岩城産婦人科の凍結胚移植の方法をご紹介
ご本人様と卵子を別々に、
卵子が子宮内膜にくっつきやすくなるように
(着床しやすくなるように)治療を進めます。
採卵
↓
人工的なホルモンを補充
↓
子宮内膜の治療
子宮内膜を今の年齢より、
2歳くらい若い状態にできる治療をする
(例:年齢40歳なら、内膜は38歳くらいの状態になります)
↓
受精卵が内膜と、
1番くっつきそうなタイミングを見計らう
↓
受精卵を子宮に戻す
(胚盤胞移植)
採卵
↓
スピンドルビューで見ながらピエゾイクシー
(染色体を傷つけないように顕微授精)
↓
受精卵となる
↓
タイムラプスインキュベーター
(特殊な胚培養器で、常に動画で記録をつけながら育てて、受精卵の成長過程・成長具合を確認します)
↓
いったん受精卵を凍結保管
(人工的に子宮内膜をつくってる間)
↓
受精卵をとかす
↓
レザーアシステッドハッチング
(受精卵が着床する前段階を作ってあげる)
↓
受精卵を移植
(胚盤胞移植)
凍結胚移植~体外受精~
採卵した卵子の受精卵を保管します。
大きいタンクに液体窒素が入ってます。
このタンクの中に、受精卵を保管します。2種類の保管の仕方、容器があります。
開放型…アイスのヘラのようなものに受精卵をのせて、大きいタンクに入れます。
密閉型…小さいプラスチックの容器に受精卵を入れ、大きいタンクにいれます。
どちらも大きいタンクに入れますが、それぞれの受精卵がむき出しかどうかで、他の受精卵たちと同じ液体窒素の中で、ふれるか、ふれないかが変わります。
開放型にして、いくつもの受精卵をむき出しで大きなタンクに入れると菌・ウイルスの感染の可能性があります。※公衆浴場のイメージ
例:B型肝炎など、B型肝炎を持ったお母さんの卵子には、
卵子の状態でB型肝炎があると言われてます。他の卵子から移る可能性があります。
↓密閉型で凍結保管していく様子・器具
新しい培養液の導入について
岩城産婦人科では子宮の中の状態を良くするために、
胚移植(受精卵をお腹に戻す)前の子宮内に、GM-CSFを注入してます。
そして今回、体外受精・顕微授精(ART)の患者様向けに、
新しくGM-CSF入りの培養液を用意しました。
胚(受精卵)を移植しても妊娠しにくい方や、
流産歴のある方に対してはとくに有効で、
妊娠率の改善や、流産率の軽減
などが期待できます。
胚(受精卵)が子宮内膜にくっつきやすくなります。
GM-CSFを培養液に入れると、
胚(受精卵)が育つ環境を自然に近いものにできます。
SAGE 1-Step
BlastGEN
精巣内精子による顕微授精 について
イクシー・・・顕微授精
精液検査で、精子を見つけることができなかった場合
↓
無精子症の診断
↓
無精子症の治療法
↓
TESE の技術を使う
そのほかの治療法はこちら
※精液検査について~ ① ②
①は精子の運動率や濃度、②は精子の奇形など
精巣を一部分、少しとります。
↓
顕微鏡で精子の有無を確認。
↓
精子を見つけたら凍結保存します。
↓
そのあと採卵になります。
↓
採卵日に合わせて、凍結していた精巣一部をとかします。
↓
とかした中から、生きている精子を選びます。
↓
顕微授精に使います。
採卵当日にTESEをして精子を見つけられず、
卵子を採ってしまっても、治療中止になってしまいます。
より確実な方法で治療するため、当院では精子を凍結しておきます。
↓TESEで精子を見つけ、回収・保存・凍結までの様子